自殺予防について(コラム3)

コラム
自殺者数の傾向 警察庁の調査によると、日本における自殺者は平成10年(1998年)に急増し、その後平成23年(2011年)まで3万人を超えている状況が続きました。平成24年(2012年)からは3万人を下回るようになり、年々減少傾向にありましたが、令和2年(2020年)に増加しました(男女別では、男性は減少が続いています)。令和2年の自殺者数は、21,081人でした。 出所:厚生労働省自殺対策推進室 警察庁生活安全局生活安全企画課「令和2年中における自殺の状況」https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/R03/R02_jisatuno_joukyou.pdf   自殺に至る原因は複雑で多様なものですが、警察庁の「令和2年中における自殺の状況」に示されている原因の第1位は、圧倒的に「健康問題」でした(10,195人)。健康問題の内訳をみると、上位3位は、次のとおりでした。 この結果から身体的・精神的な健康の重要性がみえてきます   ■自殺対策基本法 日本では、上記のような自殺者数の状況を背景に、自殺の防止と自殺者の親族等への支援の充実を目的として自殺対策基本法が制定されました(2006年6月21日公布、10月28日に施行)。 基本理念として、「自殺対策は、自殺が個人的な問題としてのみ捉えられるべきものではなく、その背景に様々な社会的な要因があることを踏まえ、社会的な取組として実施されなければならない。」(2条2項)ことの他、国や地方公共団体、医療機関などの各団体が密接に連携しなければならないことなどを掲げています。   ■自殺総合対策大綱 平成19年(2007年)6月には、自殺対策基本法に基づいて政府が推進すべき自殺対策の指針を示した「自殺総合対策大綱」が策定されました。 その後、改正や見直しがなされ、平成29年7月、「自殺総合対策大綱~誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指して~」が閣議決定されました。 企業に対しては、次のような要請がなされています。 「企業は、労働者を雇用し経済活動を営む社会的存在として、その雇用する労働者の心の健康の保持及び生命身体の安全の確保を図ることなどにより自殺対策において重要な役割を果たせること、ストレス関連疾患や勤務問題による自殺は、本人やその家族にとって計り知れない苦痛であるだけでなく、結果として、企業の活力や生産性の低下をもたらすことを認識し、積極的に自殺対策に参画する。」   ■自殺予防の十箇条 厚生労働省の「職場における自殺の予防と対応」では、以下の「自殺予防の十箇条」が掲載されており、以下に示すようなサインを数多く認める場合は、自殺の危険が迫っていると考えられるとして、早い段階で従業員を専門家へ受診させることが求められています。   ■自殺についての誤解 自殺については、次のような誤解がされやすいと考えられております。正しい知識をもって、自殺対策に取り組む必要があります。   ■「いつもと違う」のサインを見逃さない  上記の「自殺予防の十箇条」は、自殺の危険性を示すサインとなりますが、もっとわかりやすいサインは、「いつもと違う」ということに周囲が気づけるかどうかです。しかし、「いつもと違う」ことに気づくためには、その人の「いつも」がどのような状態なのかを把握しておかなければ機能しません。 そうすると、一番大事なことは、日頃から、社内において、コミュニケーションを円滑にし、従業員の普段の言動において、管理監督者が従業員の「いつもの状態」を把握しておくことがメンタルヘルス不調の予防、ひいては、自殺のリスク軽減につながると考えられます。   弁護士 竹中 由佳理