企業とメンタルヘルス(コラム1)

コラム
仕事や職業生活に関するストレス 厚生労働省が実施した「平成30年 労働安全衛生調査(実態調査)」によると、「現在の仕事や職業生活に関することで、強いストレスとなっていると感じる事柄がある」労働者の割合は58.0でした。 そのストレスの内容の上位3位は次のとおりです。 1「仕事の質・量」59.4% 2位「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」31.3% 3位「仕事の失敗、責任の発生等」30.9% ストレスの内容別の男女差にも特徴があります。 1位の「仕事の質・量」では、男女差は大きくありませんが、2位の「対人関係」と3位の「仕事の失敗、責任の発生等」では女性の方がストレスを感じる割合が多いという結果です。また4位の「役割・地位の変化等」と5位の「会社の将来性」については、男女差が大きく、男性の方が強いストレスを感じている割合が高くなっています。   ■企業において、従業員のメンタルヘルスは、個人の問題か ここで、考えてみたいのは、企業で働く従業員のメンタルヘルスは個人の問題なのかということです。   <労働安全衛生法> 労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境を形成することを目的として定められています。 そして、労働安全衛生法3条では、「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。」と定められています。   <労働契約法> 労働契約法第5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」として、使用者の労働者に対する安全配慮義務(健康配慮義務)を明文化しています。 安全配慮というと、危険作業や有害物質などへの曝露など、職場の物理化学的環境のことをイメージされるかもしれません。そのような対策も含まれますが、それだけではなく、従業員のメンタルヘルス対策も使用者の安全配慮義務に含まれています。 企業は、大前提として、縁あって企業の一員となった従業員のメンタルヘルスが企業の業務に起因して、脅かされることがないようにしなければなりません。 また、メンタルヘルス不調の従業員が生じることによって、作業効率の低下や、長期休業の必要性などから周囲の人の負担が増え、組織全体の成果も落ちてしまいます。組織の持続可能性の面からも企業にとって、メンタルヘルス対策はとても重要なことがわかります。   ■長時間労働の危険性 2010年における疾病や傷害ごとの日本国内での損失(DALYs;Disability-adjusted life years:疾病や傷害を原因とする平均余命短縮およびQOL(生活の質)低下による損失の合計)を検討した研究では、300以上の諸要因のうち、次の上位16原因によって、日本人の健康損失の大半が発生していることが明らかにされています(http://www.healthmetricsandevaluation.org/gbd)。   日本におけるDALYs損失の上位16原因 (Global Burden of Diseases 2010,GBD PROFILE:JAPAN)   厚生労働省による「過重労働による健康障害防止のための総合対策」においては、長時間の過重労働は、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因であり、脳・心臓疾患の発症と関連性が強いとの医学的知見に依拠し、時間外・休日労働時間 の削減、労働者の健康管理の徹底等を推進しています。 次の図では、100時間超又は2~6か月平均月8時間を超えると、健康被害のリスクが高まることが説明されています。   出所:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署・独立行政法人労働者健康安全機構「過重労働による健康被害を防ぐために」   企業には「過重労働による健康障害防止のための総合対策」により次のような措置が求められています。 ①時間外・休日労働の削減 ②年次有給休暇の取得促進 労働時間等の設定改善 労働者の健康管理に係る措置の徹底   企業にとって従業員のメンタルヘルスケアは、個人の問題ではなく、組織の問題としてしっかり取り組んでいくことが必要です。 なお、職場のメンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は、年々増加傾向にあります(平成28年:56.6%、平成29年:58.4%、平成30年:59.2%。平成30年 労働安全衛生調査(実態調査))。従業員規模の大きい事業所群ほど取り組んでいる割合が高い傾向にありますが、規模の小さな中小企業においても、その必要があることは言うまでもありません。   弁護士 竹中由佳理